焼き鳥
むかし、魔法が使えた。
早朝の朝に流れ星を雨のように降らせたり、しおれかけた花を蘇らせたりした。我ながら危険なちからだと思ったので、ひた隠しにして世の中にひっそりとまぎれて暮らした。
だが、そんな努力を嘲笑うように、魔法のちからはあっさりと失せ、今や冴えないただの中年だ。アサヒビール、のちょうちんを前に、インスタントなレトロ感を演出した居酒屋にいる。
「お待たせしましたあ。ねぎまのタレ、砂肝の塩、つくねのタレ、やきとん串のみそダレでーす」
ずらりと並べられた焼き鳥は、絶品というわけでもないが悪くはない、安心の中途半端さだ。
砂肝をかじりながら、もう少し塩が効いているといいな、と思って、ふと、パチン、と指を鳴らしてみた。
「……マジかあ」
つい、声に出して笑った。口の中に、少しだけ塩気が強くなった砂肝を噛みしめる。
このくらいでいい。
このくらいで充分なのだ、と思う。
世の中にひっそりとまぎれて飲むビールは、焼き鳥によく合った。